森永卓郎講演会

友人から招待され、森永卓郎氏の講演会を聞きに行った。

投機資本を、次々に畑を食い荒らすイナゴの集団に例えた話や、それらが何の価値も生み出さない事など、昔から思っていた事をズバリ言ってくれた。バブルやM&Aなどを生きる糧とする彼らの限界点が、先のリーマンショックを始めとして表面化してきている。

そういう中で、日本がどのように今後成長していくのかを色々と話してくれたが、その中で森永さんはイタリアの労働スタイルをモデルにあげていた。細 かい数字はここでは省くが、日本人のイメージとして彼らは「働かない」と思いがちだが、実際は「働かない」のではなく、「休む事を前提」にスケジューリングしているという。日本の有給休暇の取得率は約45%に対して、イタリアは約100%。さらに最低1ヶ月の夏休みを取る。そもそも年間計画をたてる際に、 1年は12ヶ月ではなく、11ヶ月を前提にするらしい。実労働時間が日本より全然短いそういう環境で、GDPにおいてイタリアはすでに日本を抜いている。

中小企業大国日本というイメージも、実際はイタリアの方がそうで、イタリアには大企業というものがほとんどない。ほとんどが中小企業なのに、世界に 通用するブランドが、イタリアには数多くある。サッカーの中田選手がかつて所属していたパルマのオーナー会社は、生ハムやチーズを作っている会社だ。日本 でそういう会社がサッカーチームのオーナーになり、選手に数億円の報酬を出すことなど可能だろうか? 彼らは商品に高付加価値をつけ、他よりも高い価格で も売れる戦略をとっている。ALESSIの雑貨もそうだが、普通に考えれば同じ機能を持つものより2倍も3倍も高いものが、実際に売れている。他に真似で きないデザインだったり、遊び心だったり、そういうところに付加価値をつけている。

10年程前に、フランスで1ヶ月ほど仕事をしたことがある。5時になるとみんな一斉に帰宅し、毎日2〜3時間かけて、ワインと共にゆっくりと夕食を 楽しんでいた。何度かスタッフの家に招待された時に、「今日はお客さんが来てるからこんなに豪華にしてくれたの?」聞いてみたが、どうやら毎日がそうらし い。もちろん一 部の上層部のスタッフはそうはいかないが、普通の労働者は、そうやって毎日を暮らしている。実体験してみて思ったが、時間の流れ方が全然違うから、1日が 日本より長く感じた記憶がある。

もちろん、これらの例全てを日本人がやればいいという事ではないが、日本の根底にある「休む」という事に対する罪悪感が、根本的な違いなのではない だろうか。そうなると「遊ぶ」という事にも「果たして休んで遊んでいていいのだろうか?」となり、結局他の人がやっているから、自分も休めないという発想 になる。それがいわゆる「マジメ」という事になり、会社の評価につながる。結局、人生は仕事のため、会社のためという事になる。

行動全てが仕事を優先に考えると、遊びに行くのも可能な範囲に限られる。行きたいから行くんじゃなくて、行けるところに行くという発想。結局みんな がそういう行動を取るから、似たり寄ったりの休日、同じような遊び方をする。そういう人生サイクルの中で、どうやって面白い発想が生まれるだろうか?

ただマジメに物作りをしていれば良いという時代は、もう終わっている。ただ不良品のない正確な製品作りをしているだけでは、世界からは見向きもされ ない。日本人の「マジメさ」の定義を、そろそろ見直す時期なのかもしれない。命令に従う、休まない、などという事が「マジメ」で、それが評価の前提になっ ている限り、世界からみる日本人は、ただの働き蟻でしかない。

「仕事はツラいもんだ」という、深く日本に根付いている暗い発想は、もうやめよう。ツラくないと仕事じゃないとか、そういう事じゃない。しっかり自 分の時間を作って、たくさんの経験をして、楽しんで、考えて、そういう中から面白いアイディアが生まれてくるんじゃないだろうか。手先の器用さだけでな く、生活を楽しむ術や環境を作れば、この国はすごく素敵で魅力的な国になると思う。

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